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13 - Underground (1)
私は自分で選んだの
だからこんな事、美龍にしか頼めない

―「Parallel World」

 身体を預けているベッドが揺れる振動で、龍輝の意識は現実に戻った。
 「(…なんだ?)」
 朦朧とした意識の中、危険が迫っていると本能が警鐘を鳴らす。いつもならすぐに覚醒するはずなのだが、瞼は重く異常な眠気に引きずり込まれそうになる。
 絶えず身体を揺らす振動と、動きを阻害する拘束用ベルトの存在で、自分が病室ではなく担架で運ばれていると気付いた。
 「何を…」
 抵抗しようと声を上げるが思うように出ない。
 それでも声に気付いたのか、運んでいる看護師らしき男が担架の下から酸素マスクを取り出して龍輝の口元に被せた。恐らく抵抗される事も想定していたのだろう。
 くぐもった声は自分にしか聞こえない程小さくなり、気持ち息苦しくなる。
 マスクを外そうにも拘束されてる以上、現状を脱する術がない。
 押さえつけてくるような眠気に抗いながら、龍輝は担架がどこかに着くのを待つ事にした。

 「―君、青井君」
 目を閉じて再び眠ったように見せかけつつ眠気に抗っていたつもりだったが、どうやらそのまま本当に眠りに落ちていたらしい。
 「寝てはだめだ。このまま寝たら君の命が終わってしまうよ」
 聞き覚えのある声に応えようと、重く閉じた瞼をこじ開けた。
 明るさの足りない蛍光灯の下、光の落ちた手術台の照明ライトと目が合う。
 龍輝を拘束していたベルトは外され、足元を見ると、最後のベルトを外そうとしている平山の姿があった。
 「これでよし。…起き上がれるかい」
 担架から龍輝を解放した平山は上半身の方にまわりこみ、背中に手を添え起き上がる手助けをしてくれる。
 引きずる強烈な睡魔で頭が重い上、左腕を失ってから身体のバランスがうまく取れない。
 「平山、一体どうなって」
 「聞きたいことは沢山あると思うけど、今はここを出るのが最優先だ。誰かが来る前に早く」
 龍輝の問いを遮り、平山は声を潜めて答えた。
 普段温厚な平山は仕草も声も険しさに欠けるが、答える暇もない程切迫した状況であることははっきり伝わる。
 とにかくここにいてはいけない。
 意識を奮い立たせて睡魔を振り払うと、担架の縁を掴み力を入れた。
 すると思ったより力が衰えていたのか、掴んでいた手が滑り、転げ落ちそうになるところを平山に助けられた。
 「その状態で一人で降りるのは無理だ、私につかまって」
 「……」
 決して謝辞の気持ちがないわけではない。
 しかしたとえ恩人であっても、人間に対してありがとうとはどうしても言えなかった。
 それは人に忌み嫌われて育ってきたが故の不信感からくるものと言って間違いないだろう。
 言葉を飲み込んで平山の肩を借り、担架から足をゆっくり降ろすと、塞がったばかりの傷がわずかに痛む。それをかばいながらもう片方の足も降ろした後、平山により掛かる形で立ち上がった。
 「―?」
 一瞬、足元が揺れたのは気のせいだろうか。
 「歩けるかい?少しずつ行こう」
 平山は肩をまわして龍輝を支えると、前方の出口を指差した。
 煌々と輝く非常口の色は焼けており、緑というより青に近い。
 龍輝はその青白い光に顔をしかめ、不気味に佇む白い扉へ一歩踏みだそうとした時だった。

 「―何をしているの!?」
 眼前の扉が静かに開き、次いで聞き覚えのある女性の驚いた声が降りかかる。
 項垂れていた頭を上げると、そこには白衣に身を包んだ美龍が呆然と立っていた。
 あまりのタイミングの悪さに、ただでさえ酷い眠気で険しい顔が更に歪む。
 「何、と言われてもね…」
 平山は言葉を濁し、気まずそうに半歩下がった。その表情は龍輝からは見えないが、強張った肩から緊張している様子が伝わる。
 「それはもうあなたの患者ではないわ。通達は行ってるはずよ」
 「薬物実験の被験体は物扱いですか」
 「物じゃなくても生かすに値しない化け物だわ」
 否定しなかった美龍に、抱いていた不信感が確かな反意に変わる。
 「あなたという人は―」
 糾弾を口にするより早く、龍輝が動いた。
 平山の手を振りほどき、身体を押しのけ自立すると、ふらつく足が倒れる前に走り出して美龍につかみかかった。
 「―お前のせいで!!」
 片腕だろうと龍輝の力は強い。
 不意を突かれた美龍は床に叩きつけられ、それに半ば引き込まれる形で龍輝が上に倒れる。が、すかさず起き上がり美龍の細い首に手を伸ばすと、あらん限りの力でそれを絞めはじめた。
 首を掴む腕は頑として動かず、気道が塞がれ息ができない。
 仮にも重傷の怪我人であるはずなのに、一体彼のどこにそんな力が残っていたのか。
 焦燥に顔を歪める美龍を見下ろすその顔は、突き刺さる怒りの中に、冷たい悲しみが滲んでいた。
 「青井君、やめなさい!」
 予想外の事態に、平山が慌てて駆け寄り二人を引き離そうとする。しかし四十を過ぎた中年の腕力では青年に勝てないのか、あるいは龍輝が怪我人である事を気にして加減してしまうのか、なかなか首を絞める手を剥がせない。
 とはいえ、片腕故に平山を退けられないのだろう。肩を引っ張る力に抵抗できず、傷の痛みに耐え切れなくなった龍輝はようやく手を離した。
 「離せ!あいつを殺さなければ」
 「落ち着いて。君が手をかけてしまったら聞きたいことも聞けなくなってしまう」
 平山に諭され、龍輝は抵抗を緩めた。
 一方、解放された美龍は咳き込みながら壁に背中を預け、身の安全を確保する。
 「助かったわ。そのまま手術台に戻してくれるともっとありがたいのだけど」
 「残念ですがそれはお断りさせていただきます」
 「…なんですって?」
 聞き捨てならない、という様子で平山を睨む。
 「昼間の話を聞いていなかったの?それは殺人鬼よ。殺した数も一人や二人じゃないわ」
 「話は聞いています」
 「なら手術台に戻しなさい」
 「……」
 平山は静かに首を振った。
 「…殺人鬼の味方をするつもり?自分が何を言っているか分かってるの!?」
 「十分理解しています。…ですが」
 美龍の背後にある薬物棚と、龍輝の左肩を交互に見やる。
 腕の通っていない袖はそれだけで痛々しい。
 「幾人もの命を実験台にしてきたあなたも、殺人鬼と何ら変わりありませんよ」
 美龍の顔が赤くなったと思ったのも束の間、平山の視界が振れると同時に軽快な音が響き、頬に痛みが走った。
 「そんな奴と一緒にしないで。虫唾が走るわ!これ以上侮辱するならあなたも実験台になってもらうわよ!!」
 次いで出た言葉が母国語になっている事にも気付かない程怒っているらしい。
 邦語さえ怪しい龍輝はもちろんだが、平山も言語には疎く、意味を理解することはできなかった。が、大体のニュアンスは伝わる。
 呆気に取られる二人の反応を無視し、罵詈雑言をひと通り吐き終えた美龍は踵を返して手術室の扉に手をかけた。
 「っ待て…!」
 「青井君!」
 立ち去る美龍を逃がすまいと、再び暴れだす龍輝を平山は必死に押さえる。
 ぶり返す傷の痛みで平山を振りきれない龍輝は、どうにか仕留められないかと辺りに目を配った。すると視界の隅、右手の届く位置に、メスや鋏の置かれたワゴンがあるのが目に留まった。
 脇を抱えられ動きに制限はあったものの、そこからメスをひったくるように掴むと、扉を閉める美龍めがけて勢いよく投げた。しかし間一髪のところで扉は閉まり、投げたメスは虚しく跳ねて床に転がった。
 「―っ離せ!何故止めた!?」
 痛みを無視し、取り逃がした怒りを平山にぶつけるように暴れ狂う。
 その勢いにもみくちゃにされながらも、平山は龍輝の問いに答えた。
 「傷が、また開いたら、困るのは君だよ。それに、彼女の行くところは、大体、予想がついてるから」
 「どこに行ったんだ」
 「薬剤庫だよ。厳重に管理しているから君はまず入れないし、二か所あるうちどちらに行ったかまでは分からない」
 行き先を告げると、暴れていた龍輝の動きがぴたりと止まった。
 二択の行き先、しかもどちらかははずれという博打と、自分の体力を天秤にかけているようだ。
 「ひとまず病室に戻ろう。そこまで戻れば人の目もあるし、少しは安全になる」
 平山の一言で身の安全確保に軍配が上がったらしい。しばらく考えた後、龍輝はため息混じりに頷いた。
 大人しくなったのを見計らって腕を離し、付近に置いてあった点滴スタンドを引き寄せる。それを掴んで支えにするよう促してようやく手が空いた平山は、今度は扉を開けると廊下の隅に置かれていた車椅子を押して戻ってきた。
 「これに座って」
 足の傷がズキリと痛み、早く座りたいと身体が急かしてくる。引き寄せられるように車椅子に腰を落ち着けると、抑えていた眠気がじわじわと意識を侵食してきた。椅子が動くわずかな振動も、平山が何か話している声も、その妨げにはならない。
 眠ってはいけないと自分に言い聞かせながらも、龍輝は既に舟を漕いでいた。
 「(…やはり美龍が何か飲ませていたみたいだな)」
 すっかり眠りに落ちた龍輝を運びながら、平山は大きくため息をついた。
 警戒心が強く、危険察知能力の高い彼が、人の前でこうも簡単に眠ってしまうのはおかしい。恐らくどこかのタイミングで強い眠剤にすり替えられ飲んでしまったのだろう。
 何にせよ、美龍を怒らせてしまった以上、自分も彼と同じ目に遭うだろう覚悟をしなくてはならない。
 昼間見たメモを思い出し、後悔の二文字が平山の頭をよぎった。

 *

 長い廊下を歩き、地上行きエレベーターに乗り、ようやく見慣れた病院の景色が戻ってきた。
 そっとドアを開け、周囲に誰もいないのを確認してから、何事もなかったかのように病院の廊下へ足を踏み出す。ついさっきまでいた手術室は、病院から繋がってはいたが病院の設備ではないようだ。
 今しがた通ったドアには立入禁止の札があり、従事者や患者はもちろん、院長さえこのドアの向こう側を知らない。その為昔から開かずのドアとして噂され、一部で様々な不吉な憶測が飛び交っていた。
 つまり平山と龍輝は、誰も入ったことのない区域の正体を知ってしまったことになる。
 「(できれば知りたくなかった、かな)」
 地下の手術室は不気味なほど静かだったからか、深夜の病院の音が騒がしく聞こえてくる。もっとも、外が大雨というのも一つの原因だろう。
 自分がよく知る世界にひとまず戻って来られた事に思わず安堵のため息をつき、あと一息だと心の中で呟いてから車椅子を押した。
 「あ、先生ここにいらしたんですか!」
 曲がり角から女性看護師が顔を出し、やや小走りで駆け寄り急患を伝える。
 「交通事故で後頭部に損傷、第二手術室に搬送済みです」
 「分かった、すぐに向かうよ」
 急患と聞き緊張が走る。そのまま準備室に向かいそうになるが、押していた車椅子と龍輝の存在を忘れてはいけない。
 「…と、悪いけど彼を病室まで頼んでいいかな」
 彼女は龍輝の介護を担当している中年女性だ。美龍側についている可能性はゼロではないが、少なくとも美龍の美貌に憧れている若い看護師よりは信用できるだろう。
 快諾してくれた看護師に病室の番号を告げ、車椅子のハンドルを預けた。
 かなり深い眠りに落ちているのか、項垂れている龍輝は起きる気配がない。
 起こさないよう補足してから看護師と別れ、準備室へと急いだ。

 平山から患者を引き受けた看護師、立枝は、途中でつかまえた同僚と三人がかりで龍輝をベッドに戻した。
 「ありがと、助かったわ」
 「いいのよお。それじゃ戻るわね」
 同僚を見送り、ベッドを整えて辺りを見回す。
 見ると、点滴が残り少ないことに気が付いた。スタンドに新しいものも下げられていない。
 「(あら。新しいの取ってこなくちゃね)」
 点滴パックの種類をメモに取り、患者を起こさないようそっと病室を出た。
 土砂降りの雨が窓を打ち、そのせいか今日は空調があまり効いていないようだ。
 ほんのりしみる寒さに身を震わせ、かけていたカーディガンを前に寄せながら、立枝は足早に薬剤庫へ向かった。

 立枝が扉を閉める音で龍輝は目が覚めた。
 睡魔はまだ尾を引いているが幾分軽くなったようだ。眠るまいと思っていたのに結局また眠ってしまっていた事に自己嫌悪しながらも、生きて病室に戻ってきている事にひとまず安堵する。
 室内に平山の姿はなく、扉の向こうに立っている人影は背を向けていてこちらに気づいていない。右、左と首が動いた後、そのままどこかへ行ってしまった。
 扉越しの影を見送り、足音が遠のいていくと、自然とこれからの事に頭がいく。一時的に危機は去ったとはいえ、美龍の庭の中にいる事に変わりはない。実験台にされる前に何としても仕留めなければ。
 「(…薬剤庫は二か所あると言っていたな)」
 病院の案内図を思い出そうとするが、記憶にある図は曖昧で、薬剤庫の文字もあったかどうかあやしい。
 面倒だが、一度見に行って確認しないことには院内を動き回るのもままならない。
 龍輝はゆっくり上体を起こした後、身体のあちこちを動かして傷の様子を確認した。
 肩は耐えられそうだが、問題は足の方だ。少し動かしただけで激痛が走り、自立歩行はおろか、何かを支えにして歩くのも厳しい。
 いつ彼女の手が伸びてくるか分からない以上、大人しく回復を待つという選択はない。
 どうにか歩きまわる方法がないかと辺りを見回すと、乗せられてきた車椅子が目に留まった。これで移動の問題は解決しそうだ。
 あとはどうやって怪しまれずに美龍のいる薬剤庫までたどり着くか。
 「(…巡回に見つかった時のかわし方を考えた方が早いかもしれない)」
 かわす理由を考えながら車椅子を引き寄せ、ゆっくり重心を移動する。
 膝から下を一切動かさずに身体を動かすのは難しく、何度も激痛に見まわれながらも車椅子に座る事ができた。
 ハンドリムに手をかけ動かそうとした時、部屋の扉が開いた。
 「あら、大人しくしてなきゃだめですよー」
 入ってきたのは点滴パックを手に戻ってきた立枝だった。
 「もしかしてドア閉める時に起こしちゃったかしら。ごめんね」
 「…別に」
 ひどく焦った顔をしてるのが自分でも分かる。
 暗がりで表情がよく見えないのが幸いしたのか、立枝が気付いた様子はない。
 立枝は車椅子に座る龍輝を無理に戻そうとはせず、点滴の交換を始めた。
 「先生は急患で手が離せなくなっちゃって。私もすぐ戻らないといけないから、今晩は安静にしてて下さいね」
 小さな声で話しながら、手際よく点滴パックを差し替え調節を済ませる。
 「これでよし、と。あとはおトイレかしら?」
 車椅子に座る龍輝を見て看護師の勘が働いたのだろう。
 外を歩き回る方法に考えあぐねていた龍輝にとって、助け舟ともいえる立枝の気遣いに乗らない手はなかった。
 「自力で行ける」
 「そう?じゃあ、トイレの前までね」
 龍輝は静かに頷いて、立枝にハンドルを任せることにした。

 病室を後にし、周囲にあるものに目を配りながら車椅子用のトイレまで運んでもらう。
 「何かあった時はそこのボタンを押してね」
 ナースコールボタンの場所を教え、立枝は去っていった。
 足音が遠のいたのを確認してからそっと扉を開け、外の様子を窺う。
 深夜の入院病棟の廊下に人の気配はない。来る途中通りがかったナースセンターもがらんとしていて、人は出払っているか、奥にいる様子だった。
 「(他の薬剤庫は…下か?)」
 薬剤庫はというと、一つは龍輝の病室の近くにあった。
 扉の向こうは見えなかったが、あの薬剤庫に美龍がいるとは考えにくかった。病室の近くなら龍輝が戻ってきた事もすぐに気付くはずだし、再び連れ去る事も容易にできる。
 となると、もう一つの薬剤庫にいるか、あるいはここから遠い場所にいるか。
 龍輝はトイレを出ると、隣接するスロープから下へ降りていった。
 ちらと見た案内図によると、病室の位置は四階で、二階までは病棟になっているらしい。一階は受付と各科の診察室があり、薬剤庫もその中にあった。
 「…ん?」
 一階に降りた龍輝の目に最初に入ったのは、立入禁止の札が下がった扉だった。案内図には扉だけ書かれていて、その先には何も書かれていない。
 行き止まりにあたるこの扉の周囲は何もないが、一階なだけにいつ人が来てもおかしくはない。
 曲がり角なので死角になっているのが幸いだろうか。
 明らかに怪しい扉をしばらく睨んだ後、辺りを見渡して誰もいない事を確認し、龍輝はそっと扉に手をかけた。

 鍵のかかっていないノブはすんなりまわり、音もなく扉は開く。
 扉の向こうは常夜灯が薄暗く辺りを照らし、閉めると院内の喧騒も雨音も置き去りにされてしまった。
 窓もない部屋の中は薬品臭が強く、奥にエレベーターが見える。数字が光っているということは一応稼働しているらしい。
 「(もしかして、さっき連れてこられたところか…?)」
 一つしかないボタンを押すと待たずに扉が開き、担架が入るくらい広い空間が蛍光灯の下に広がる。訝しみながらもエレベーターに乗り、これまた一つしかない行き先のボタンを押して待つ。
 扉が閉まり、低い稼働音と共にエレベーターが動き出す。下降時特有の浮遊感に酔いそうになりながらも、それほど長い時間はかかることなく地下へ辿り着いた。
 「ここは…」
 見覚えのある緑色の床と白い壁、そして気持ち薄暗い蛍光灯の並ぶ長い廊下。
 そこは間違いなく龍輝が担架で運ばれた時に通った場所だった。
 病院から繋がっているということは施設の一部なのだろうか。しかし、それにしては人の気配がなく手入れも行き届いていない。
 「(…この奥にまだいるんだろうか)」
 息を呑み、先の見えない廊下を進みだそうとした時だった。

 奥からメキメキと割れるような音が轟き、腐った土の臭いが鼻をついた。
 蛍光灯は消え、非常電源に切り替わったのか、足元の常夜灯がずらりと並ぶ。
 「なっ…!」
 突然の事態に驚いて身構えた龍輝だったが、暗闇に落ちた後から襲われるという気配もない。
 辺りを警戒しつつ、落ち着いて状況を確かめることに意識を集中した。
 奥から聞こえた轟音と、今も鼻をつく土の臭い。これが原因で電気が遮断されたのは間違いないだろう。
 そしてその二つから、何が起きたのかは山育ちの龍輝がよく知っていた。

 「―陥没か」
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