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7 - Epilogue
暗殺組織リレイが潰れたという事件は、夜明けを待たずその手の世界に身を置く者達の耳に入った。
その事実は大きな衝撃を与えたが、彼らが崩壊の原因を知ることはできなかった。その出来事を耳にした者達は何者かの手によって闇に葬られ、リレイという組織が存在したことさえ裏歴史から抹消されたからだ。
姉妹組織ソロノームのボス、フォンの孫が指揮を執ったと囁かれていたが、その孫も行方不明である現在、真実を知るものは誰もいない。真実は闇からさらに深い無へ葬り去られてしまったのだ。

前略
君がここに辿り着く事があるのか、僕には分からない。
けれど君がここに辿り着く頃、僕がここに戻ることはないだろう。


 春の日差しが木々に遮られ、木漏れ日となって降り注ぐ。
縁の黄ばんだ藁半紙に鉛筆で書かれた地図とも呼べない図を手に、少年は草の伸びきった道を慣れぬ足取りで歩いていた。
焦茶色の細い髪をキャスケットで隠すように被り、黒い長袖の上にグレーのシンプルなパーカーを羽織っている。ジーンズについたウォレットチェーンが揺れ、林の中で金属音が微かに響く。背負っている藍色のスポーツバッグには何が入っているのか、バッグの形が残る程度の膨らみがある。長い距離を歩いてきたからか、それとも背負うバッグが重いからか、少年の息は少しずつ上がっていた。

僕は今、とある組織に属している。
好きで属しているわけじゃない事は、君がよく知っているだろう。
組織を潰そうとしている男の計画に手を貸している。
何でも、そのために僕の存在が必要だと言っていた。
どこにも属さない死神の力が。


 ふいに足元に柔らかな感触を感じ足元を見やると、一匹の猫がすり寄ってきていた。
茶虎模様と黒虎模様の交じり合ったその猫は上を見上げ、にゃあと鳴いてもう一度頭を少年の足元に擦り付けた。人里離れた林の中、人に懐く猫を珍しげに見ながら、バッグに入れていたポテトチップスを取り出して開けた。それを視認した猫は目を輝かせてにゃあにゃあと鳴き、屈み込んだ少年の膝に手をついて催促する。少年がポテトチップスを一枚取り出して猫の鼻に突きつけると、猫は少し匂いを嗅いでから嬉しそうに口にくわえ、地面に下ろすとぱりぱりと咀嚼音を立てて食べ始めた。
その様を眺めていると、猫の首に布のような物がついているのに気がついた。固く細結びされたぼろぼろの布は相当古く解けそうにないが、猫の首を絞める程きつく巻かれてはいなかった。誰が巻きつけたものかと無意識に顔を上げると、草叢の茂みに隠れて建物のようなものが見えた。

抜け出す者には死あるのみと言われるこの組織からは、人を殺す力以外に得るものはない。
得る力と引き換えに、奪われるものがある。
それが命だけではない事は、日向で生きる君でも分かるだろう。


 鉄骨がむき出しになったその建物に屋根はなく、軽い凌ぎ程度に青いシートがかけられているだけだった。
人が去ってから何十年もの年月が経っているのだろう、少年の年齢より遥かに長い年月を生きている事だけは分かった。
かつて工場だったと思わせるだけの広さをもち、錆びきった有刺鉄線が建物を護っている。少年を迎え入れるように開いている入り口に門扉はなく、今にも崩れそうな壁の向こうからは日光が人工物の隔てなく差し込んでいる。
更にその奥―建物の最深部に、建物に残された機械や備品よりは新しい人工物が顔を覗かせているのを見つけ、少年はそこに吸い寄せられるように建物の中へ歩みを進めた。

僕は日向で生きるなど決して叶わない人間だ。
死ぬその瞬間も、そして死んでからも暗闇の中を歩き続けるだろう。
君は日向に生きていながらも、その存在を知り触れている、僕の知る唯一の人間だ。
誰かに気付いて欲しい。その願いはどこで生きていようと、人間である限り必ず生まれるものだと僕は思う。


 真新しい人工物は三つ置かれ、どれも雨ざらしで錆付き腐食が進んでいた。
顔を覗かせていたのはキャンプ用の折り畳み椅子で、奥にボックスとパイプベッドが置かれていた。
二段に分かれたボックスの上段にはほとんど原型をとどめていない紙の塊が詰まり、かろうじて読める文字から、本が入っていたのが分かる。
下段にはプラスチックか何かで出来た箱が置かれ、引き出し口がついていた。触れなくとも劣化の様子が伺える箱をそっと開け、中を覗いてみる。何も入っていない箱の隅は黒ずみ、経年で積もったごみとカビの臭いが充満しているだけだった。カビ臭さに鼻をつまみながら箱を元に戻そうとして思わず力が入り、触れていた引き出し口が音を立てて割れた。慌てた少年は一瞬辺りを見回し、誰もいない様子に安堵のため息をつく。

僕が君に残せる物は、きっと何もないだろう。
それでもいいと言うなら、ここに残した物を持っていくといい。

龍輝


 もう一度顔を上げ、錆びたパイプベッドを見やる。
そこにはさっきポテトチップスをあげた猫がいつの間にかベッドの上に居座り、居心地よさそうに目を瞑っていた。猫の下からビニール袋に包まれた紙が見え、少年は猫を撫でながら静かにそれを引っ張り出す。
古く劣化したビニールの中には二つ折りにされた紙が二枚入っていた。経年数は置かれている家具とさほど変わらないように見えるが、ゴミもなく比較的綺麗に保存されていた様子が伺える。
その隣には一丁のデザートイーグルと刃渡りの長い狩猟用ナイフが置かれ、長い年月を経て錆びきったそれらに本来の役目を果たすことが出来ないのは一目瞭然だった。

 寝床をとられた猫が何かに気付いたように後ろを向き、にゃあと鳴いてその場に座り込んだ。
猫の見ている場所を目で追うと、いつからいたのか、人がいると気付き一瞬背筋が凍る。


 暖かい春に真冬のダウンジャケットを着込んだその人間は、目を細めて微笑むと、背を向けうっすらとその姿を消していった―。

(Fin...)
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