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5 - Get a freedom (1)
冬の路地裏で静寂を破る音が響く。
 組織の建物に隣接する廃ビルの屋上に、ガラスの破片が飛散する。その破片の上に龍輝は着地した。一瞬だけ背後を見、未練もない様子で躊躇いなくビルの階段を下り始めた。


 程なくして本部の方から爆発音が耳を打つ。それでもペースを変えずに階段を下り終わり、本部前の道路へ出た。
 組織内の武器庫を爆破されたにも関わらず、外から見た建物は異様に静かだった。先の爆発音に戸惑う者はいない。アクシデントが発生した時のために訓練を施されているからだろう。外を見回っていた組織の一人が龍輝を見つけると、躊躇わず歩み寄り話し掛けてきた。
 「美龍!さっき本部に帰ってきたんじゃなかったのか?」
 「ああ…ちょっと用事があってまた外に出かけてたんだ」
 「用事…?」
 不審な顔をしたのもつかの間、龍輝に声をかけた男は、自分の額にナイフが突き刺さったと気付くのに一瞬遅かった。勢いよく血が噴出し、バランスを失った人形のようにくずおれた。
 その様子を見た周囲のメンバーは瞬時に各々の武器を手にし、赤い血溜まりの中心に立つ龍輝に殺意の牙を向ける。
 「美龍、組織への裏切りとみなして抹殺する!」
 周囲は龍輝への殺気で溢れかえる。しかし龍輝はそれをものともせず、それどころか楽しそうに笑いながら迎え撃つ。
 さながら悪魔のように駆け抜け、外にまで火の気が上がり始めた本部へ走り出した。

 「ナハトを止めろ!奴は組織を潰す気だ!!」
 炎と煙があがる中、誰かが叫んだ。爆発の衝撃で建物の地下は崩壊してしまい、銃火器は全て瓦礫の下敷きになった。ナハトは狩猟用ナイフと使い方の分からないワイヤーランスを服の中に仕込み、爆破前にあらかじめ確保しておいたG36と弾薬、デザートイーグルと投擲ナイフを手に、階段を駆け降りて襲い掛かる殺し屋達を躊躇いもなくなぎ倒していく。
 地上へと続くドアを蹴破り、デザートイーグルを構えた正面に小さな人影が映った。
 構えた姿勢を崩さぬまま目を凝らすと、小さな人影は一人の女性であることが確認できた。
 「ナハト、貴方どういうつもりなの!?」
 緊急の連絡を受けて戻ってきたレルファは、煙にまかれた部屋の奥で呆然と立っていた。その後ろに外に続く通路が見える。
 「お喋りしてる時間はない。お前も邪魔するようなら容赦しない」
 最初から容赦する気がないのか、トリガーに指をかける。それに物怖じすることなく、レルファはナハトを説得しようと試みる。
 「こんな場所でも、私は貴方を信用していたわ…。でもそう言うなら仕方ないわ。組織の一人として貴方を食い止めるまでよ」
 悲哀の混ざる眼差しをナハトに向け、レルファは左右の手に三本ずつ、計六本のナイフを構えた。その意味を理解したナハトは構えていたデザートイーグルをおろし、レルファの持つナイフとは型の異なるナイフに持ち替えた。
 「ただの時間稼ぎにはもったいないが仕方ない…。その信用に応えて、こいつで楽に逝かせてやる」
 刹那、レルファは体を沈ませ背後のドアを蹴り、ナハトめがけて突進した。見切り余裕の様子でそれをかわしたナハトは、大きく跳躍してレルファの背後をとる。すかさずナイフを後ろに振るが、綺麗なバック転を描いて一歩後退し逃れる。間をおかず投げたナイフはあっさり叩き落されてしまった。
 「隙だらけだな。それでもリレイ屈指の殺し屋か?」
 相手に大きな動きを見せられるほど、ナハトには余裕があるということである。実力の差を見せつけられたレルファは、軽く歯軋りをした。
 「自分の実力は把握してるつもりよ。貴方に敵わないこともね」
 そう吐き捨てると、自棄的にナイフを投げた。ナハトに届く前に床に落ちたナイフは甲高い金属音を発し、燃え盛る炎の音に掻き消えた。
 「諦めるなら行かせてもらう」
 ドアに向かうべくレルファの隣を通ろうとした刹那、ナハトの視界が黒く焦げ付いた天井を仰いだ。瞬時に体が倒れたと認識したと同時に、人間の体の重みを感じる。
 「甘く見ないで。不意打ちは常套手段とよく言うでしょ?」
 上からレルファの声が降ってきた。声が耳に届くよりわずかに早く、生暖かく柔らかい生きた人間の手の感触が首に触る。
 触れた手が殺意を帯び、握力となってナハトの首に食い込む。その手を止めるには、手を動かすタイミングが遅すぎた。
 急速に喉が絞めつけられ、骨の軋みが痛みとなって悲鳴を上げだす。
 「…え?」
 二人が聞き慣れた不快な音と共に、レルファの殺意はそこで止まった。
 背中から滲み出す痛覚は瞬時にレルファの体を支配し、その内から暴れもがき訴えてくる。耐え切れなくなった体は、その悲鳴を血という形で噴出した。
 「レルファ、甘く見ていたのはお前の方だ」
 ナハトは目を逸らし、痛みにもがき苦しむレルファの姿を見ようとはしなかった。
 その様を見たレルファは、ナハトが人を殺す度相手から目を逸らしていた意味を知る。
 「─…あ」
 「お別れだ」
 言葉を遮られ、レルファがもう一度口を開くことは叶わなかった。

 外に続く扉を開けると、鼻をつく臭いが辺りにたちこめていた。
 雨水が通るはずの溝には大量の血が流れ、炎と月明かりに照らされる地面は赤黒くぬらぬらとした光沢を返す。その上を、かつて同輩だった者達がそこここに転がり横たわっている。
 その中心に聳え立つように、一人の男が暗い夜空を仰いで立っていた。
 顔も手もその体も赤黒く染まったその男は、今しがた開いた扉の向こうから現れたナハトを待ちわびた様子で見つけると、屍の山を踏み越えて近づいてきた。
 「龍輝」
 男の名を呼ぶと、服の中に忍ばせておいた狩猟ナイフとワイヤーランスを手渡す。
 「これであってるんだろ?」
 「ああ、間違いない」
 組織に入ったと同時に回収されていた自分のナイフと、肌身離さず身につけていた遺品のワイヤーランス。慣れた手つきでナイフを元の位置にしまい、ナハトにワイヤーをつけてもらうと、少しだけ重みを感じた。長い間つけていなかったからか、違和感がかすかに残る。
 「問題なく合流できたな。ボスはどうした?」
 とってつけたような様子でナハトに訊ねた。
 「ジジイは足が悪い。俺達のように機敏な動きはできない。部屋には簡単に突破できる隠し通路のようなものはないし、掃除の時に入り口が塞がるよう細工しておいたから、今頃あの部屋に入った連中は全員袋小路で焼け死んでるだろう。…死体を見たわけじゃないが」
 「考えたな」
 炎に食い尽くされていく建物の明かりを背に、ナハトは明確に口を吊り上げて笑って見せた。復讐を成し遂げた者だけが見せるそれは、龍輝が初めて客観的に見た復讐者の笑みそのものだった。

 ナハトが見せた笑みは一瞬のうちに消え、変化に気付いた龍輝もまた表情を強張らせる。
 「この気配…」
 龍輝は言葉を漏らしたが、ナハトは黙ったまま動かない。
 「さすがナンバーワンの称号を持つだけの実力はある。…いや、組織に反逆した以上、もうその称号は俺にあるのかな?」
 炎の轟音の中でもはっきりと聞こえた声はユンジェンのものだった。
 黒い炭と変わり果てていく建物を背に、いつの間にか現れた二つの人影がそこにある。
 「やはり残ってたか…。建物を燃やしたって死なないってわけか」
 「当然だろう?なめてもらっては困る」
 悠然とした足取りで二人に近づくユンジェンの顔には煤一つついていない。その斜め後ろをついて歩く篭目もまた、赤黒く淀んだ瞳で二人を凝視したまま視線を外そうとはしない。
 「あれだけ分かりやすい指示をしておいたのに、どうやら他の奴らの実力を買い被りすぎていたみたいでね。俺達以外は全滅したよ」
 使えない奴らだ、と吐き捨てたユンジェンの顔が醜く歪む。表情豊かだな、と龍輝はぼんやりと頭の中で感想を漏らした。
 「ボスからの最後の命令よ。…貴方達二人を殺せってね」
 静かな声で宣戦布告をすると、小さく微笑んで腰にあるホルダーに手をのばした。それに倣いユンジェンも銃を構える。
 「…お前達は最後までジジイの番犬だな」
 冷たく一瞥し、ナハトはデザートイーグルを持ち直した。
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