忍者ブログ

Gensou-roku Archive log : Copyright(C) 2010-2014 Yio Kamiya., All rights reserved.

[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

8 - trust
―全ては悪夢の続きから始まる。

 両親が殺された後に続く記憶は、何年か経った雪の日。
朦朧とした意識の中、適当なサバイバルナイフを手に海へ逃げた。
海水の届かない岩場に積もった雪を踏んで、灰色の空と海の境界線を見ていたのを覚えている。
人体の急所を叩き込まれていたのにあえて手首を選んだのは、心底死ぬつもりがなかったからだと今は思う。
ただ、生きている痛みに希望を抱いていたような気がする。

雪に赤い血を散らして仰向けに寝転がった時、視界に広がる空を阻んで俺を見下ろす影があった。
大型の狩猟ナイフを腰に下げたそいつは、無関心に一瞥をよこしてあの言葉を言い捨てた。
「憎ければ、死神になれ」
数年後、水神村跡の森でそいつと再会した。
雪の日の出来事を忘却に置き去りにしたまま。

 再会したそいつは左腕を無くしていた。
殺人鬼と名乗るに相応しい眼をしていた反面、その目にはかつて見た憎悪が薄れ、別のもの―死を願う意志が宿っていた。
俺に死神になれと言ったその男は、既に死神ではなくなっていた。

 それから、しばらくそいつの様子を影から観察し始めた。
村の跡地は物好きな人間に評判があるようで、時折人がやってくる。死神だった男―龍輝は、そうして跡地を訪れた人間を殺しては笑っていた。
狂気に笑む姿は食事にありついた飢えた獣さながらに悍ましく、また何にも囚われないある種の象徴のように脳に記憶した。
―その姿が、囚人の如く生きていた当時の俺に希望を抱かせた。

 re-ray(リレイ)。
俺の両親を殺し、俺を閉じ込めていた暗殺組織。
抜け出す者には死あるのみの狭い世界から生きて出るたった一つの方法。
組織を潰すには、あの男の力が必要だ。

 そしてその結果は―成功だった。
代償として龍輝は死に、俺もまた死んだはずだった。
ただ何の悪戯か、俺は瀕死の重傷で生き延びていたことが歯車を更に狂わせた。

 「―僕は別に、生きて帰れる事は特に望んでいなかった。そういう意味では、お前が気に病むような代償は何もない」
暗く澱んだ水底のような空間の中、リオの記憶に残る生前の姿で龍輝は私見を述べた。
「リレイは確かに潰れた。姉妹組織のソロノームも、アイリと篭目が死んだ事で潰えた。事実上お前を縛るものはもうなくなったんだ」
後ろに束ねた焦茶色の髪を揺らし、無くした左腕の不便さをものともしない動きで見えない椅子に座った。無意識に落とした黒い瞳の色は光彩を拒み重く、考えに耽る様子が見て取れる。
「その割にまだ何かあるような顔してるな」
リオの言葉に龍輝の目線が微かに揺れる。
「…リレイが潰れた後から先の事は僕はほとんど知らない。お前が拘留所で目を覚ますまでの間にあった出来事は、僕の手助けなしで自ら探すしかないんだ。そこに何かあるような気がして―」
言葉はそこで途切れ、龍輝は再び考え込んだ。
少しの間を置き、暗い水底の空間がうねりをあげて歪みだす。
胎動を思わせるその動きは重く、内に孕む何かを捻り出そうとするそれに似ていた。
「…時間切れだ」
龍輝は悟った調子で短く告げ、組んだ両手に顎を乗せてリオを見据えるともう一度口を開いた。
「目覚めたら暁を訪ねてみるのがいいだろう。それからあの男…志島には気をつけろ」
うねりは激しさを増し、覆い被さる水の流れとなってリオと龍輝を隔てた。
PR
Copyright ©  -- 月夜謳 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / Powered by [PR]

 / 忍者ブログ