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4 - His smile
その後、老人から警備の為に明後日まで本部から出ないよう指示された龍輝は、建物の中で暇を持て余していた。
建物を出るなと指示されたものの、泊まれる空き部屋がないとレルファから言われ、寝転がれるだけの場所がないかと探していたところを見かねたナハトが部屋を半分使えと言い、どうにか寝床は保障された。

 ナハトの部屋にやって来た龍輝は、部屋を一通り見回してから所在なさげに本棚の前であぐらをかいた。
棚に入っている本は少なく、部屋の雰囲気は片付いているというより生活感が薄い。奥からコーヒーを持ってきたナハトは、黙ってカップを龍輝の前においた。
「気付いたか?」
机とセットになって置かれた椅子に座って、ナハトが訊ねた。
「この腕で気付かないはずがないだろ」
やや深く息をはいて左肩を手で触れてみる。
左腕を失ってからしばらくは生活に苦労があったものの、三年もすればさすがに慣れてしまう。
「一見爽やかな男に見えるが、それなりに性格は悪いようだな」
「ユンジェンはな。篭目は一応礼儀正しそうに見えるがこんな所にいるんだ、あれも用心した方がいい」
「そうしておくさ」
まだ湯気のたつコーヒーを眺めて、少し鼻をすすった。建物の中だからか、ナハトは計画の事を口にしない。更に、話し方に機械的な口調を残している。
「美龍も大したもんだな…。あの性悪のユンジェンの挑発に挑発で返すとは」
「ほかの連中は違うのか?」
龍輝は不思議そうに聞いた。長い放浪生活によるものか、売られた喧嘩は買う、というのが当たり前になっている。
「大抵の連中は、ああいう挑発をくらった時点で奴に媚びるか固まるかの二択だ」
おかげで奴より下の実力の連中はあいつの尻に敷かれてるようなものだ。そっぽを向いてナハトは一人呟いた。つまるところ、ナハト以外は皆ユンジェンの尻に敷かれていることになる。
「まあ強いて言うなら、挑発で返されたときのユンジェンの顔は見物だったな…。が、同時に言える事がある」
「ユンジェンにとって僕の存在は敵同然になったって事か?」
「そうだ」
ナハトは一度言葉を区切り、コーヒーを一口いれる。
「これから本部にいる時は首をとられないよう気をつけるんだな」
「ご心配なく」
明日ここから脱出すると計画している者が部外者に知られないためにつく小さな嘘だな、と内心二人は笑っていた。

 二人が遅い眠りにつく時、ユンジェンと篭目は老人から命令を受けていた。
「ボス…今何と?」
ユンジェンは自分の受けた命令が聞き違いだったのかと疑うような顔で歪んでいたが、老人は真面目な顔で答えた。
「言った通りだ。今日二人には裏口ではなく内部の警備をしてもらう」
「しかしそれでは裏は誰にさせるのですか!?あそこは敵組織からの侵入が多くて俺達でなければ難しいと…」
「裏はフォンの方で警備してもらうよう手配してもらった。私とてお前達には裏口を任せたいが、特別な日なのにいつもと変わらない仕事ではつまらないだろう」
「しかし…」
なおも反論しようとするユンジェンを篭目が制した。
「いくらずっと裏を守ってきたからといって、私達はあそこに関する権利を持っているわけじゃないのよ」
「……」
小さく舌打ちした後、ユンジェンは仕方なく命令を承諾した。
「ボス、分かりました。ですが内部の警備を担当するのにこの実力で他の連中と同じ扱いとなる場合、私も考えかねます。そこの辺りは何か考慮していただけないでしょうか?」
老人は鼻から大きく息をはきながら背もたれに背中を預け、少しして二人を見据えた。
「ではこうはどうだ?二人に他の者達の指導権を与える」
「結構です。それではお引き受けいたします」
篭目はにっこりと笑みを浮かべてみせた。

 夜が明け、本部の人々が仕事に出たり内部の警備についたりと騒々しくなってきた頃、龍輝とナハトはようやく目が覚めた。
ふと窓を見てみると、掃除をしている者が開けたのか、長い間閉ざされたままだった窓が開け放たれ、冬の日光が淡く差し込んでいる。「再光」を意味する組織の名に相応しいが、その活動内容には似合わない白い光。それに引き込まれるように、小さく波の音が耳に触れる。
「この本部は海沿いにあったのか…」
閉ざされた窓から小さい波の音が聞こえる事はない。それ故龍輝は今まで気付かなかったのだろう。
「ここの窓が開いたのは今まで一度もない。換気用として作られはしたが、暗部で飛躍するこの組織が棲み付いてる以上、そんなもの全くの不要に等しいからな」
波の音が聞けてある意味ラッキーだなと、ナハトは眠い目をこすりながらぼやいた。
龍輝はそれを聞いているのか聞いていないのか、ただ部屋の中で漂い繰り返す波の音と、目の前に広がる風景に見入っている。
海とそれを見ている龍輝の姿を見て、ナハトは目を細めて微かに笑った。
「ごめん、二人ともちょっと起きて。急用の仕事が…」
騒々しい音と共にレルファが部屋に入ってきた。
「あ、ボスが建物の窓全部開けておくよう言ってたから、二人が寝てる間に開けておいたのよ」
勝手に入ってごめんね、とレルファは軽く目元をかいた。
「そうそう、二人は今日仕事よ!本当は本部の方手伝ってもらいたいんだけど、二人の実力を考えると仕事に行ってもらう方が効率いいのよ。はい、これリストね」
何やら急いだ様子でナハトにリストを手渡すと、レルファはさっさと部屋を出て行った。ナハトはやれやれといった様子で、手渡された書類にざっと目を通してみる。いつもより少なめだと言って龍輝にリストを投げた。
「これくらいなら半日も使わないで終わりそうだな」
時計を見ると、一二時半を指している。二人は埃っぽい建物の中を抜け、早々に最初の対象のもとへ赴いた。

 「任務完了、これより帰還する」
リストの最後に書かれた名前の上に横線を引き、いつもと変わらぬ棒読みで連絡をした後小型連絡無線をしまった。時間は七時五十二分、ほぼ予定通りだ。このまま本部へ帰らずにいても脱出にはなるが、それではすぐに場所を突き止められてしまう。
任務中に失踪しても居場所がわかるよう、外にいる間は発信機を取り付けられる。この装置ボス以外に秘書―レルファしか取り外す方法は知らない。たとえボスのお気に入りのナハトでも、発信機を外すのは不可能だ。無理に外そうとすればトリカブトの塗られた針が喉に刺さる。勧誘されて入った者たちの多くは、その事実を知らず毒の餌食となって死んだ。
「全く、これさえなければ本部に帰って騒動起こす事もないんだが…」
「帰らなければ発信機は外せないんだ。仕方ない」
ぶつぶつ言いながらナハトは首につけてある発信機を爪で軽く小突いた。親指大の発信機はコツンと金属独特の高い音を発する。
その音を聞きながら、龍輝は目元をこすった。黒い革手袋についていた血が顔につき、赤黒く汚れる。
「顔にそれつけたままじゃ、他の連中に小言言われるぞ」
「…」
仕方なくもう片方の手で血を拭ったが完全にはふき取れず、目立たない程度に血痕が残った。それ以上は落ちないと判断した龍輝はフードを被って顔を隠すことにした。
夜である事が幸いし、帰路に着く間に見られる事態は免れた。
レルファに指摘され残りの血痕を落としていると、やけに建物の中が騒々しい事に気がつく。
「会合なんて言うからもっと静かなもんかと思っていたんだが…。お祭り騒ぎでもしているのか」
「ああ、カモフラージュよ。気にしないで」
つまるところ、会合は既にに始まっているという事である。

 二人は目で暗黙の会話を交わし、静かに頷いた。その頷きは計画の始動を意味していた。
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